Title被爆の今を、自分を主語として ―KNOW NUKES TOKYO(ノーニュークストーキョー)

被爆の今を、自分を主語として ―KNOW NUKES TOKYO(ノーニュークストーキョー)

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Data

  • 名称
    KNOW NUKES TOKYO
  • WEBサイト
  • 活動分野
    アドボカシー、教育
  • 活動内容
    核兵器禁止条約を推進するためのロビー活動や平和学習など

名前に込めた3つの想い

 KNOW NUKES TOKYOは2021年5月に、大学進学で上京したばかりの2人の若者によって設立されました。この名前には3つの意味が込められています。まず、NO NUKES。核兵器に反対する。核兵器廃絶のために社会に対して声を上げ続ける、ということ。次に、KNOW NUKES。核の被害はずっと再生産され続けているにもかかわらず、日本の中ではそれが可視化されていない。被爆の今を知り、私たち全員が1万2千発以上もの核兵器がある世界に生きている当事者なんだという感覚を共有していこう、ということ。最後に、KNOW NEW。活動を続けたくても経済的な事情で辞めざるを得ない若者も多い。だから、学校を卒業した後の新たな選択肢として、アクティビスト(活動家)という道が存在するような環境とリソースを提供していこう、ということ。

 TOKYOと付けた理由は、自分たちが東京を拠点に活動しているというのもありますが、「被爆地以外の土地」というのを示したいとの想いからです。広島・長崎だけじゃなくて、この問題を考える空間を創りたい、と考えました。それにKNOW NUKES TOKYOって語呂もいいですし(笑)。

活動の事業化を目指す

 現在のメンバーは学生10人です。私たちはよく、自分たちのことを個人事業主の集まり、と表現しています。それぞれが自分の専門領域をもってやっているのが特徴です。一人ひとりが自分の役割を持ち、自由度の高い活動をしています。そういう意味では大学のサークルとかとは違いますね。

 実はKNOW NUKES TOKYOは法人化に向けて準備を進めています。先ほどの名前に込めた3つ目の点に関連しますが、私たちは卒業後のことも見据えながら活動をしてきました。メンバーのみんなに対価が支払われる中で活動を続けていきたい。だから組織として事業化していくことが目標です。ソーシャルビジネスは日本でも広がってきましたが、核兵器という政治的な話がからむもので事業化した例はそんなに多くないんです。たくさんの壁があるのは事実です。でもこの壁を突破してこそ、こうした組織が日本の社会において根付いていくことができる。いまそれに挑戦しています。

核兵器禁止条約の推進に向けて

 私たちは、ICAN(「核兵器廃絶国際キャンペーン」。核兵器禁止条約の採択に貢献したとして2017年のノーベル平和賞を受賞した国際的なNGOのネットワーク)のパートナー団体として、核兵器禁止条約の推進に向けた活動をしています。主たる活動の一つが、ロビー活動、つまり核兵器禁止条約に入ってください、と政治家に政策提言をしていく取り組みです。日本は核兵器禁止条約に入っていません。条約に入るためには国会で議論される必要がありますが、その議論さえ行われていない現状です。そこで、私たちの代表者である政治家たちに、核兵器禁止条約への考えを問いかけていくことで、問題意識をもってもらいたい、発信していってもらいたい、と働きかけています。

 一般向けの情報発信にも力を入れています。核兵器の問題をわかりやすく解説した資料(インフォグラフィックス)をSNSにアップしています。たとえば、2022年6月にウィーンで「核兵器の非人道性に関する国際会議」が開かれ、そこでは各国の専門家が核兵器の非人道性を示す最新の研究結果を発表していました。そうしたデータは重要だけれど専門的で難しいし、語学の壁もあります。そこで、それらを翻訳して簡単な言葉に置き換えて、視覚的にもわかりやすい資料として発信しています。また、一般の人や子どもたちに向けた講演活動も日常的に行っています。

ウィーンで核の非人道性を訴える

 昨年6月にウィーンで行われた核兵器禁止条約の第一回締約国会議と、その前日に開催された核兵器の非人道性に関する国際会議にも参加しました。日本が締約国会議へのオブザーバー参加を拒否するとのことだったので、唯一の戦争被爆国である日本のメッセージを誰かが議場に届ける必要がある。そうした外交の一端を私たちが担うことができればよいな、と思って現地に行きました。核被害者援助や環境修復の問題にかかわる部分で政策提言をしたり、各国から集まる関係者とネットワークを広げることも目的の一つでした。

 非人道性に関する会議のオープニングセッションでは、私は被爆三世としてスピーチをしました。私自身、被爆三世としてのアイデンティティがあるわけではないんです。よくわからないというのが正直なところです。でも考えてみると、そのよくわからないというところが問題ではないか、と気づきました。被爆者自身の健康被害についてもすべてが解明されているわけではない。被爆二世、三世についても科学的な根拠はない。つまり将来自分の体に何が起きるかわからない、子どもを産むときに影響があるかもしれない、私たちはそういった不確定要素の中で生きることを強いられているんです。それは人権の侵害に他なりません。核兵器というのはそういう長いスパンで人に影響を及ぼし続ける非人道兵器だ、ということをスピーチでは訴えました。

提供:ICAN

KNOW NUKES FORUMの開催へ

 ウィーンではICAN主催の「NUCLEAR BAN FORUM」というイベントが開かれていました。日本では見たことのないような形で、人々が真剣に、でもファッショナブルに、カジュアルに核問題を語り合う場です。そこでは人々のネットワーキングが活性化され、市民による外交が繰り広げられている。日本で核問題を広げていくために、こうしたイベントは有効な手段ではないかと思いました。  核問題について考え始めるスタート地点が日本と逆なんですね。日本では77年前の原爆から時系列で戻ってくるという形がスタンダード。ウィーンで出会った人々は現在が出発点。そこから過去のこともあわせて学んでいくというスタイル。よって語り口が常に「自分」なんです。私たちが団体の名前に「被爆の今を知ろう」との意味を込めたこととも重なります。

 同じような空間を創りたいと思って企画したのが「KNOW NUKES FORUM 2023」(4月30日)です。当事者が経験してきた痛み、苦しみに寄り添いつつ、被爆の今を考えていく。いま日本で、広島・長崎と他の地域との橋渡し役として、こういう場を提供できるのは私たちしかいない、と考えました。いろんな人が交わる空間になってほしいし、思いやりのある空間になってほしい、と企画を進めています。

イベントの詳細はウェブサイトを見てください。オンライン参加もできます。どなたでもウェルカムです!

お話をしてくれた人

中村 涼香(なかむら・すずか)さん

プロフィール:2000年長崎県生まれ、22歳。高校時代から被爆地長崎を拠点に核兵器廃絶を求める平和活動に参加。大学進学と同時に上京後、「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」キャンペナーとして核兵器禁止条約を推進。日本の全国会議員の核兵器禁止条約へのスタンスを可視化するプロジェクト「議員ウォッチ」のリサーチャーとして活動しながら、被爆地の外でのアクションを更に広めるために東京を拠点とした「KNOW NUKES TOKYO」を設立、共同代表を務める。

「いっぽめ」の若者へのメッセージ:今の社会には1人の100歩より100人の1歩が必要です。自分が抱く違和感をそのまま抱え込むことなく、ぜひ隣の誰かに共有してみてください。実は言っていないだけで同じことを考えていたりします。そうやって共有することで徐々に自分の言葉が生まれ、そのうちに気づけば社会に向けて発信できるようになっていると思います。一緒につまずきながら歩んでいきましょう。